深夜叢書社年代記 流謫と自存

深夜叢書社年代記

菊判ソフトカバー
発行日:2024/7/29
本文366頁/小冊子(28頁)付
装幀=高林昭太
定価:3400円+税
ISBN978-4-88032-506-4
C0095

齋藤愼爾著

齋藤愼爾(さいとう・しんじ)プロフィール

俳人・文芸評論家。1939年8月、京城府(現・韓国ソウル市)生まれ。2023年3月死去(享年83)。
日本の敗戦とともに引き揚げ、1946年、父の故郷である酒田市飛島に転居。 酒田東高校時代より秋元不死男に師事して句作を始め「氷海」に投句(59年に氷海賞を受賞)。58年、山形大学文理学部に入学し、六〇年安保闘争を経て週刊の同人誌「文学村」を創刊。63年、同人数人で深夜叢書社を設立(発行所を同人住所の仙台市とし、山形に連絡所に置く)。創業第1冊目を刊行し、その後大学は中退。66年に拠点を東京に移す。
自社の出版活動に加え、編集者として書籍やムックを企画編集。『中井英夫作品集』(三一書房/69年)、『現代短歌大系』全12巻 (三一書房/72~73年)、『現代俳句の世界』全16巻(朝日文庫/84~85年)、「アサヒグラフ」増刊「俳句の時代」(85年)、『映像による現代俳句の世界』全20巻(ビクター音楽産業/90年)、『埴谷雄高・吉本隆明の世界』(朝日出版社/96年)、『武満徹の世界』(集英社/97年)、『岡本太郎の世界』(小学館/99年)、『明治文学の世界――鏡像としての新世紀』(柏書房/2001年)、『二十世紀名句手帖』全8巻(河出書房新社/03~04年)、『飯田龍太の時代――山盧永訣』(思潮社/07年)、『金子兜太の〈現在〉――定住漂泊』(春陽堂書店/20年)など。
執筆活動は、「週刊朝日」「てんとう虫」「TBS調査情報」「出版ニュース」等の雑誌に音楽・レコード評、書評、映画論を連載するなど多岐にわたる。共著多数。
大学以来中断していた句作は1979年に再開。のちに山形新聞「やましん俳壇」「てんとう虫」などの選者をはじめ、芝不器男俳句新人賞、俳句四季大賞、蛇笏賞の選考委員を務める。2023年に第23回現代俳句大賞受賞。
句集に、『夏への扉』(蒼土舎/79年)、『秋庭歌』(三一書房/89年)、『冬の智慧』(東京四季出版/92年)、『春の羇旅』(思潮社/98年)、『齋藤愼爾全句集』(河出書房新社/2000年)、『齋藤愼爾句集』(芸林21世紀文庫/02年)、『永遠と一日』(思潮社/11年)、『陸沈』(東京四季出版/16年)。
評論集に、『偏愛的名曲事典』(三一書房/1994年)、『読書という迷宮』(小学館/2002年)、『暗愁は時空を超えて――五木寛之紀行』(響文社/07年)、『逸脱する批評――寺山修司・埴谷雄高・中井英夫・吉本隆明たちの傍らで』(コールサック社/19年)。
評伝に『寂聴伝――良夜玲瓏』 (白水社/08年)、『ひばり伝――蒼穹流謫』(講談社/09年/芸術選奨文部科学大臣賞受賞)、『周五郎伝――虚空巡礼』 (白水社/13年/樋口一葉記念やまなし文学賞受賞)『続・寂聴伝――拈華微笑』 (白水社/17年)。

オビ(表)

六〇年安保闘争の余燼消えやらぬ1963年、「出版」それ自体を思想的営為と捉えた山形大学の学生が、小さな出版社をおこした。文学、映画、演劇、美術、音楽への飽くなき思いは、〈無償の精神の光芒〉を掲げて刊行された400冊超の本に結実する。
  表現者たちとの熱い交流
     60年の軌跡

吉本隆明、埴谷雄高、春日井建、中井英夫、吉岡実、石原吉郎、澁澤龍彥、山口誓子、森崎和江ら多くの忘れ得ぬ著者との邂逅—俳人としても知られる齋藤愼爾が、表現者たちとの熱い交流、稀有な編集者遍歴を初めて綴った独白的出版文化史。

オビ(裏)

「真の表現者は自らの理解者がひとりも出現しないことを希わないか。やすやすと理解されてなるかという痛憤。時代からも人間からも世界からも遠くに流謫されたわが身を夢想するものではないか。
白昼の官許の文学史に録されたことを恥じる。世界を凍らしむるていの、生存の根底に依拠する己が暗冥を、史家の手すさびに委ねるのを拒絶する。そんな出版社は可能であるか。」                         (本文の「創業前夜」より)

目次

  Ⅰ
創業前夜 六〇年安保闘争の余燼のなかで
吉本隆明との出会い 「戦後世代の政治思想」の衝撃
念願の第一冊目を上梓 宍戸恭一『現代史の視点』
『現代史の視点』の推薦文 反響を呼んだ創業出版
我、人に逢うなり 桶谷秀昭『芸術の自己革命』
山形が生んだ夭折の鬼才 永山一郎『出発してしまった』
丹野文夫と清水昶 「文学村」のころ
演劇への射程 菅孝行『死せる「芸術」=「新劇」に寄す』
独創の田中英光論 毛利ユリ『連帯と孤死』
埴谷雄高との邂逅 六〇年安保世代の教祖
 Ⅱ
若き〈現代の定家〉の歌集 春日井建『行け帰ることなく/未青年』
『虚無への供物』の復活 中井英夫『彼方より』
不羈奔放に生きた俳人 堀井春一郎全句集『曳白』
二十年後の「ヒロシマ」 石黒健治『広島 HIROSHIMA NOW』
眼の歩行者 高梨豊写真集『人像』
猫の宇宙 武田花『うちの猫 よその猫』
愛惜する詩人の〈歌集〉と〈句集〉 吉岡実『魚藍』と『石原吉郎句集』
旧制一高文芸部の黄金期 白井健三郎『體驗』
気鋭の仏文学者の第一評論集 宇佐美斉『詩と時空』
〈おんな〉の思想 森崎和江と上野千鶴子
「峠」の思索者 真壁仁『吉田一穂論』
自由人・大井廣介 『野球殺人事件』と『ちゃんばら藝術史』
三島由紀夫が信頼した作曲家 矢代秋雄『オルフェオの死』
 Ⅲ
安保闘争を象徴する映画 深夜盤『灰とダイヤモンドのテーマ』
茂吉十七歌集の精髄 山形新聞編集局編『茂吉秀詠』
核と原子力をめぐって 吉本隆明『「反核」異論』
大岡昇平のモーツァルト 大岡昇平『音楽論集』
昭和俳句の巨星とコスモロジー 野尻抱影・山口誓子『星戀』
俵万智の青春 内山英明写真集『俵万智』
表現者、吉本和子 吉本和子句集『七耀』
異端の古代史家 室伏志畔『筑豊の黙示』
他者の悲しみへ憑依する魂 新藤謙『石牟礼道子の形成』
見事な文章技巧 野中映『音楽案内』
虫愛ずる俳人の死 渡部伸一郎『会津より』
魂鎮めの希望の書 原満三寿『白骨を生きる』
 *
深夜叢書への苛烈な批判 吉本隆明全集「書簡集Ⅰ」について
十二通の書簡 吉本隆明全集「書簡集Ⅰ」について
自立出版社とは何か 吉本隆明全集「書簡集Ⅰ」について
雨がふったらぬれればいいさ 吉本隆明全集「書簡集Ⅰ」について
 *
齋藤愼爾アルバム(巻末17頁)
「アサヒグラフ」1968年10月11日号再掲「創業のころ;六畳間の出版社」
深夜叢書社の全刊行書籍一覧(1964~2024年)

〔付 録〕書き下ろし寄稿「齋藤愼爾さんについて」

井口時男(評論家)「天上の蜜に渇くや蝶の旅」
五木寛之(作家)「齋藤愼爾さんのこと」
井上荒野(作家)「ポーの人」
上野千鶴子(社会学者)「齋藤愼爾」
小川哲生(編集者)「ささやかな映画上映会」
倉橋健一(詩人)「六〇年代の申し子」
立石 伯(評論家)「齋藤愼爾という未知」
原 満三寿(俳人)「愼爾さんの兜太批判」
ハルノ宵子(漫画家・エッセイスト)「似たもの同士」
松岡祥男(評論家)「齋藤愼爾さんを思う」
水原紫苑(歌人)「天使?」
山尾悠子(作家)「『角砂糖の日』のころ」

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