詩集 春ん月
A5変形判上製カバー装
カバー装画:
岩崎灌園「本草図譜」より
発行日:2020/11/11
本文120頁
装幀:高林昭太
定価:2500円+税
ISBN978-4-88032-463-0
加藤道子著
加藤道子(かとう・みちこ)プロフィール
1932年生まれ。
旧・大分一高(現・上野丘高校)卒。
俳諧の会「浜風」創始。俳号・亀女。
オビ
いきいきと甦る
土地の記憶――
この詩集は、つつましやかな自分史と見えて
背後にその激動の時代が暗示されており、
個の感懐がおのずから普遍性を持つ。
加藤さんのものの見かた、まなざしの確かさが
深く読者の心に響いてくる。 別所真紀子
跋「まなざしの深さ 確かさ」(別所真紀子)
『春ん月』
なんと楽しく愛らしい言葉。
まるで満月のようにまるまるとした春のみどり児が、ころころ生れ出たような。
桜も盛りの四月十日に村の守り神が、ひととき短い旅をされて村びとたちがお神楽を奉納してもてなす。酒や重詰め、弁当を提げて。
それはこの国の原風景である。祭りが終ったあとに「ほいと」の親子が住み着く。疎外せずに受け容れるゆとりある村落共同体。
この「春ん月」を巻頭に置く本書は、加藤道子さんが八十八歳にして初めて上梓された第一詩集である。
加藤さんは昭和七年(一九三二)大分県庄内町小野屋(現大分県由布市庄内町小野屋)の生れ、現在は神奈川県逗子市にお住まいで、詩集の第一章は故郷小野屋の風物、行事、忘れ難いひとびとを、第二章では現住地の逗子を、そして第三章では、夫君亡きあとの加藤さんの生の在りようが、はつらつといきいきと描かれている。
加藤さんの昭和七年から平成を経て令和二年に至る年月は、バナールな表現でいえば「激動の時代」であった。この詩集は、つつましやかな自分史と見えて背後にその激動の時代が暗示されており、個の感懐がおのずから普遍性を持つ。加藤さんのものの見かた、まなざしの確かさが深く読者の心に響いてくる。
その資質を育くんだ小野屋という町。
十七夜観音祭り
町一番の頑固者と評判の父
遠くなった耳でアナウンサーの質問に
とんちんかんな聞き違え
緊張の庄内弁でとつとつ
「十七夜観音祭り」を語る
小野正一ラジオ放送テープ
「小野屋という優しい町を通り
天神山の木賃宿に泊まる
をなご屋のをなごさんが
托鉢に一銭銅貨を入れて呉れた」
と、山頭火さんは書きました
(以下省略)
町を代表して祭りの由来をラジオ放送する父君。種田山頭火『行乞記』にあるこの一節は、小野屋の駅前の碑に刻まれているという。
見知らぬ者にもなんとなつかしい町の情緒であろうか。
(以下略)