俳句の射程 秀句遍歴
四六判上製カバー装
発行日:2019/8/26
本文254頁
装丁:高林昭太
定価:2700円+税
ISBN978-4-88032-453-1
原 雅子著
原 雅子(はら・まさこ)プロフィール
2002年、現代俳句協会年度賞受賞、 2005年、第51回角川俳句賞受賞。
現在、「梟」同人。「窓」代表。 現代俳句協会会員。日本文藝家協会会員。
句集に、『日夜』『束の間』、著書に『ポイント別俳句添削講座』。
共著に、『鑑賞女性俳句の世界4』『相馬遷子―佐久の星』。
オビ(表)
俳句と出会う、俳句と生きる
現代俳句協会年度作品賞、角川俳句賞受賞作家による、〈現代俳句を読む〉(「梟」誌)と〈秀句の風景〉(「雁坂」誌)連載シリーズを合わせた湊合詞文集。
瑞々しい感覚、詩意識で紡がれた俳句日めくり暦。
時代を超えて心に響く俳句史の珠玉を真に味読するための必携の好著。
オビ(裏)
Ⅰ 現代俳句を読む
月々の俳句総合誌・結社誌・句集から多様な作品を掬い、明晰に読み解いた俳句時評。
Ⅱ 秀句の風景
人生と交錯する名句の数々――該博な知識とやわらかな筆致で綴る珠玉のエッセイ。
目次
現代俳句を読む
〈俳句時評127ページ〉2014年~2016年
秀句の風景
送火や〔高浜虚子〕/ねむり蚕に〔皆吉爽雨〕/蚯蚓鳴く〔川端茅舎〕
藤垂れて〔三橋鷹女〕/三月といふ〔高野素十〕/筍や〔藤田湘子〕
水打てば〔中村汀女〕/竹馬や〔久保田万太郎〕/箱庭と〔松本たかし〕
ねむい子に〔長谷川素逝〕/娘等の〔星野立子〕/末枯や〔岸本尚毅〕
見るたびに〔大住日呂姿〕/早稲の香や〔芭蕉〕/おもふ事〔曲翠〕/一昨日は〔去来〕
見えぬ眼の〔日野草城〕/新藁や〔芝不器男〕/武蔵野〔矢島渚男〕
枝々に〔渡辺和弘〕/人殺す〔前田普羅〕/折々に〔芭蕉〕/綿虫の〔石川桂郎〕
いぢめ尽せし〔桑原三郎〕/峠見ゆ〔細見綾子〕/啓蟄の〔小檜山繁子〕
鳥の巣に〔波多野爽波〕/父祖の地に〔秋元徳蔵〕/死にたれば〔下村槐太〕
夏の山〔金子兜太〕/産声の〔池田澄子〕/どむみりと〔芭蕉〕
猫死んで〔大木あまり〕/秋の蚊を〔高浜虚子〕/永き日や〔永井荷風〕
傷舐めて〔茨木和生〕/秋の淡海〔森 澄雄〕/大津絵の〔芭蕉〕
へろへろと〔秋元不死男〕/浪速女の〔高浜虚子〕/鶯に〔飯島晴子〕
街角の〔髙柳克弘〕/階段が〔橋 閒石〕/雪の日の〔中岡毅雄〕
日蝕の〔大峯あきら〕/松は知の〔友岡子郷〕/大原や〔丈草〕
鎌倉右大臣〔尾崎迷堂〕/熱砂降る〔小池文子〕/なつ来ても〔芭蕉〕
その中に〔中田 剛〕/梅雨めくや〔相馬遷子〕/貧乏に〔小澤 實〕
野を焼くや〔村上鬼城〕/早苗とる〔芭蕉〕
人名索引
五十音索引……239名
あとがき(抜粋)
本書は〈現代俳句を読む〉〈秀句の風景〉の二章に分かれます。
〈現代俳句を読む〉は二〇一四年一月から二〇一六年十二月まで「梟」誌に載せていただいたもの。
俳句の発信・享受の場はここ十年ほどに限っても大きく変化してきました。結社の枠を越え、さらには他ジャンルとの交流その他、多彩な状況が展開され、インターネットの使用にも拍車がかかっています。今後ますます加速していくことでしょう。そんな中で俳句自体の実質的な向上を問う声も底流として聞こえてきます。
まずは先入観なしに作品に向き合ってみよう、そこからしか始まらないというのが、書いている間ずっと感じていたことでした。
本書では月々の各総合誌・結社誌・句集からの作品を基にしていますが、目配りの至らなさに忸怩としつつ、それでも多様な俳句群に出会えたのは楽しい体験でした。
〈秀句の風景〉は同人誌「雁坂」(終刊)での連載。「雁坂」とのご縁はもともと、句会の応援にと謙遜なお誘いを戴いての参加でしたが、そのうち文章もということになって気儘に書かせていただいた小文です。今回思いがけなく日の目を見る機会を与えられて、忘れていた自分を思い出すような面映ゆさでした。当時からだいぶ時間が経っていますが、ほぼそのまま収めてあります。
書評から
俳句の森の理想のガイドさんの手になる
一句鑑賞の本
吉野わとすん/「鬣(たてがみ)」2020年2月号(抜粋)
散歩をしていて俳句が浮かぶことはほとんどないけれど、俳句を読むことは森を歩くのに似ているなあと思うことがある。「一句鑑賞」は、一本一本の木と向かい合う作業。一句の内容、季語や難しい言葉の説明、どういうテクニックが使われていてどういう効果をあげているのか、作者や時代背景について。公園や植物園の樹木によく添えられているプレートのような、そんな解説がわかりやすくできたら素晴らしい。そしてできれば「木を見て森も見る」ことができるようなお話をしてくれるガイドさんがいてくれたら最高である。でも、これはかなり難易度高めである。その木だけでなく、植物ひいては自然全体についての知識や考えを自分のことばで語れなければならない。何より、森への「愛」が必要だ。でも、自分語りに堕してしまってもいけない。
…と、熱心すぎるハイキング客のような前置きが長くなってしまったけれども、これらの条件を満たした、俳句の森の理想のガイドさんの手になる一句鑑賞の本が本書である。
(中略)
著者自身の語りは、第二部の「秀句の風景」でさらによく味わえる。こちらは一句を見開き頁で鑑賞するスタイル。ミニエッセイ風だが、その句の周辺のことにとどまらず、話題が豊富で読んでいて楽しく、かつためになる。それだけなら他書もあるだろうが、この著者の魅力は俳句とは何かをずっと考え続けているところだ。
「『ものをよく見て』とは、初学時代にかぎらず俳句ではしばしば言われる教えだが、自分の内部に何かがなければ、穴があくほど見つめても〈もの〉はただの〈もの〉にしかすぎないし、私の場合は見ることに限定されていたらとっくに俳句に興味を失っていたかもしれない」。
この人は信頼できると思った一文。