『死靈』の生成と変容  埴谷雄高のヴィジョンと無限の自由

『死靈』の生成と変容

四六判・並製カバー装
本文222頁
装丁=高林昭太
発行日 2017年10月30日
定価:2500円+税
ISBN978-4-88032-440-1

立石 伯著

立石伯(たていし・はく)プロフィール

文芸評論家・作家。
1941年8月、鳥取県生まれ。法政大学大学院博士課程修了。元・法政大学文学部教授。
著書=作家論・作品論に『埴谷雄高の世界』『石川淳論』『ドストエフスキィ』の〈世界意識〉』等、小説に『潮風』「西行桜外伝」『玉かづら』等がある。
最新の著書は小社同時刊行の『随感録 現実の感受法と熟視のために』。

オビ(表)

埴谷雄高没後20年、
『死靈』からの問いかけ

戦後日本文学に聳立する巨篇『死靈』。その成立と変容の過程を、 「『死靈』構想ノート」 (1935年頃)なども読み解きながら精緻に追尋する。埴谷雄高『死靈』論の一つの到達点。

オビ(裏)「はじめに」より抜粋

昭和二三(一九四八)年一〇月に『死靈』第一巻が眞善美社から上梓されて以降、作品そのものは時代の変遷に堪えながらさまざまな読みとりにおいて、その作品の姿を変化させてきた。さらにこの七〇年間ほどの時間的推移のなかで、『死靈』が書きつがれ、全三巻を体得することができるようになり、そのなかで成長するもの、時代の推移とともに忘れられるもの、捨て去られるものなどを織りまぜながら、『死靈』は独自な生命を育みつづけてきたのである。

あとがき

 二〇一七年二月一九日に、埴谷雄高逝去二〇年忌が青山墓地の墓前でおこなわれた。はやくも逝去後、二〇年にもなったのである。わたし達の幾人かは、この忌日を「アンドロメダ忌」と名づけている。
 二〇〇七年に没後一〇年というかたちで県立神奈川近代文学館で埴谷雄高展が開催された。埴谷雄高を知るためには、適切な展示会であった。わたしはその一定の成果をうけて、批評家や若い研究者などが埴谷雄高の文学的・思想的な遺産を分析・研究してくれればいいと思いながら『死靈』などの考察を放棄していた。しかし、そのご、埴谷雄高研究者や文芸批評家などによって、新しい見地からの埴谷雄高論や作品研究などがわずかしか公表されていない。全体的な展望やあらたな視角などのもとに考察された埴谷雄高文学や思想などについての論文がなかなか現れない現状である。
 こういう現状を鑑みて、わたしのかかわっていた「星雲」という一種休止状態にあった同人雑誌を創刊号からほぼ五〇年ぶりに締めくくる意味をこめて、終刊号(三三号)として埴谷雄高の『死靈』論を書くことにした。急に思いたったにわか仕込みの仕事ではあった。二〇一五年四月に、《『死靈』生成と無限大の自由へ―——埴谷雄高における「自己と宇宙」のヴィジョンの始原と究極―——》という論題でまとめ、発表した。本書のもとになる論文である。したがって、単行書として上板するにあたり、すこし手をくわえたり、構成を変更したりして、本書のかたちにまとめた。
「星雲」刊行の時には、もう数年で逝去二〇周年になるという考えが稀薄で、この論考もそのまま放置していた。単行書として刊行することにしたのは、二〇年忌の青山墓地で墓石をみながらつよくつぎのこと、つまりこれから埴谷雄高研究がなされるとき、埴谷雄高文学・思想などを考える一つの基礎になるものを提示しておきたいと考えたためである。そのような役割を果たすかどうかは心許ないとしても、である。

ページのTOPへ