教師「ん」とカリン
四六判上製カバー装
発行日:2017/1/25
本文174頁
装丁=高林昭太
定価:1600円+税
ISBN978-4-88032-436-4
越村 清良著
越村 清良(こしむら・きよら)プロフィール
1951年、石川県金沢市生まれ。本名、越村隆二。
元新聞記者。元「俳句朝日」編集長。俳号、越村藏・立花藏。
第2回石川啄木賞(俳句部門)を受賞(立花藏、2010年・北溟社主催)。
句集に『岩枕』(越村藏、2005年・角川書店)。
大河の町の少女の物語
修学旅行の夜、二人だけが「ん」に呼ばれた。
……「きょーつけっ」号令三連発の恐怖
……「あちしは泣くよ。愛する君のために」とカリンは言った。
……「ん」は言い切る。
社会的に無一物のおまえたちは、『あ, りがたい、ありがたい』と唱えながら生きていくべきであり、おまえたちが先生、を悩ませるようなことがあっては、絶対にいけないんだよ」と。
全く新しい<ジュブナイル>の誕生。
借金取りに追われる母ととともに、
パラグライダーが大空に舞う、北陸の小さな町に引っ越してきた少女カリン。
住まいは、それぞれに事情を抱えた子供たちが暮らす生活支援施設だ。
共同生活のなかで親友、仲間を得て成長するカリンは、
中学2年のクラス替えで担任教師「ん」と出会う。
なぜ「ん」なのか?
「ん」の陰湿な横暴に、芽生える殺意。
「二つの青に向かって…」
――幕開けは、少女の眼に映る町の高台の風景から…
(冒頭の10行)
山と平野の、ちょうど境い目にある北陸のこの町は、古い町ながら、いまはパラグライダーの聖地でもあって、良く晴れた日には、山並みの上に広がる大空に、目を奪われるのである。そこには色とりどりのパラグライダーが舞い出ていて、雲と遊ぶものは高く、風とたわむれるものは速く、空の散歩を楽しんでいるのだった。ここでは、「日本海に向かって翔べ!」がライダーたちの合言葉であり、パラグライダースクールのある、町の高台に暮らすあたしたちも、この言葉が好きだった。高台からは日本海の水平線がかなり高いところに見えた。毎朝の通学であたしたちは、日本海の群青と日本海の上の空の真青(まさお)と、それら二つの青に向かって、長い下り坂を駆けて行くのだったが、ときどきは、晴れがきわまっているにもかかわらず、あたしの眼球のなかの水平線はけむっていて、それはまず間違いなく、あたしのなみだのせいなのだった。