余白の祭

四六判/上製/本文414頁
装丁=高林昭太
発行日:2013/3/25
定価:3400円+税
ISBN978-4-88032-407-4

恩田侑布子著

恩田侑布子(おんだ・ゆうこ)プロフィール

1956(昭31)年9月、静岡市生まれ。早稲田大学第一文学部文芸専攻卒。「逢」同人を経て、「酔眼朦朧湯煙句会」、連句「木の会」終会まで所属。現在「豈」同人。現代俳句協会会員、日本文藝家協会会員、SBS学苑俳句講師。家業は志戸呂焼心齋窯。
句集に『イワンの馬鹿の恋』(2000年/ふらんす堂)、『振り返る馬』(2005年/思潮社)、『空塵秘抄』(2008年/角川書店)、共著に『現代俳句ハンドブック』(雄山閣)、『句会遊遊』(NHK出版)、『鑑賞女性俳句の世界4』(角川学芸出版)など多数。

芳賀 徹氏(比較文学者)推薦文(オビ文)

疊みかけてゆく言葉の、なんという回転の速さ、切れ味のよさ。
しかも命がけのなまなましさを失わない。
先人の句に対しても、同時代人の作に対しても、
遠慮なく斬りこみ、あざやかに腑分けする。
「俳句は大いなる時間と空間に、
芥子粒のような心身をひらき
問いかける営みである」(「破行く、という精神」)
――そう覚悟した恩田侑布子の日本詩歌への挑戦。
俳句の生命がまた一段と強く大きくよみがえってくる。

目次

序 章
 編み込まれた世界
 写生――上村淳之画伯に聞く
第一章 冬の位相
 こころもことばもおよばれぬ――山頭火と母
 林泉をゆくごとし――大野林火の句帖
 月光のひと――高屋窓秋
 冬の位相
 俳句という詩
 反転するダイナミズム
第二章 身(み)と環(わ)の文学
 おのれを拓く発光装置・季語
 すっからかん――俳句と身体感覚
 一句が出来上がるまで
 破行(はい)く、という精神
 未来につなぐ歴史的仮名遣い
 寄生火山から本火山へ
 ことばの井戸 寵深花風――三橋鷹女
 鷹女と短歌とロックンロール
第三章 現代俳句ノート
 質感の幻術師――長谷川櫂小論
 俳句拝殿説
 土と青螢――宮坂静生と手塚美佐
 香(かく)の木の実【書評】
  大地の烽火――宮坂静生『季語の誕生』
  創見の星空――秋尾敏『虚子と「ホトトギス」』
  蒼穹の嗟嘆――藤田直子論
  よりそう言霊――中岡毅雄句集『啓示』
  幻の?風――中西夕紀句集『朝涼』
  永遠の秘境――澤好摩点描
第四章 名句の地平
 恋・雪月花――俳句と生きた女たち
  あの世とこの世の境で――三橋鷹女
  地上の恋――桂信子
  青苔のように――中村汀女
 一指の天地【名句の風景】
  久保田万太郎 飯田龍太  夏目漱石  阿波野青畝 有馬朗人  山口青邨
  鷹羽狩行   齋藤愼爾  高橋陸郎  森 澄雄  桂 信子  金子兜太
  種田山頭火  高浜虚子  林田紀音夫 渡邊白泉  西東三鬼  大野林火
  石田波郷   飯田蛇笏  岡本 眸  川端茅舎  竹久夢二  三橋鷹女
  永田耕衣   中村汀女  眞鍋呉夫  宇多喜代子 橋本多佳子 星野立子
 俳句の意力
  ゴータマ・ブッダ  デュラス  五代目古今亭志ん生  岸田劉生  ダンテ
  道元  山崎方代
 桑原武夫「第二芸術論」に応う――極楽への十三階段
第五章 異界のベルカント――攝津幸彦
 流るゝ馬
 やわらかい光
 無始の蔵――攝津幸彦論序説
 異界のベルカント
 余白の思想

書評より(「毎日新聞」)2013年4月1日号、「詩歌の森へ」から抜粋)

俳句評論『余白の祭』 酒井佐忠(文芸ジャーナリスト)
(冒頭略)
俳句の固定観念を脱し、体感と幅広い知を駆使した論評は、現代に生きる俳句そのものに新たな力を与えている。
「俳句という詩」と題する大震災以後に書かれた批評。恩田は、「こと」と「言葉」が乖離し、言葉が空洞化する現実を踏まえながら、安易な季題幻想や、斜(はす)に構えた発想の新奇さだけを頼りにした俳句の言葉に異を唱える。中国の『詩経』やボルヘスの言を引用しつつ、詩人は「宇宙を包含することばを探し求め」、俳句は、心情をゆり起こすような「ひとのこころを一挙に鷲(わし)づかみにしゆさぶる詩」であるべきだと指摘する。
(中略)
 恩田は1956年生まれ。若くして親鸞などの仏典を学び、陶芸から俳句に入った異色の存在。俳句論の根底に東洋的な芸術を支える「余白の思想」がある。それが大きな特色。人間の意識下の精神に踏み込んだ視線は、俳句という詩形の奥深さを倍加する。極めて現代的な批評だ。

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