詩集 蜜 月

A5変形判/上製/本文100頁
装丁=高林昭太
発行日:2013/3/3
定価:2000円+税
ISBN978-4-88032-406-7

武田多恵子著

武田多恵子(たけだ・たえこ)プロフィール

慶應義塾大学大学院修士課程修了(美学美術史)。1978年、埼玉文学賞受賞(埼玉新聞社主催)。既刊詩集に、『疑似翼』(1979年)、『呼ばれても暗い空』(1981年)、『麦の耳』(1986年、以上ワニ・プロダクション刊)、『流布』(1993年、花神社)がある。

オビ

分断された世界の傷口を閉じ
究極の和解を暗示する新しい言葉
存在の歓喜は存在の悲傷を生きるものにしか認識されない。
漏斗の形に開かれた心は悲しみの滴をうけ、生の根源へ深く歩み入る。
その魂の営為は、世界の調和に参入する自由の暗喩にほかならない。
三十を数える詞華断章は自体が「自作自註」の試み、自分にあけた風穴といえよう。
孤高の光芒を放つ新たな抒情との出会いがここにある。

詩「ふたつのみみ」(詩集「蜜月」から)

はじめてのようにめをとじるとき
あなたのくちびるをおもう
もっとかたりたかったたくさんのことば
もっとよびたかったたくさんのなまえ
もっとふれたかったたくさんのわたしを
なにかがすべておわり
はじめてのようにはるがくるとき
とりはみなかぜのかたちをしている
そこからかぜのとりやないているわたしが
みえていますか
わたしはいつもはじめてのようにかなしい

はじめてのようにてをのべて
わたしたちのやくそくにさわろう
もくよくのあとのみどりごのように
むくでせいけつな
ちちとせっけんのかおりのする
みらいをたっぷりとふくんだやわらかさを
まだおぼえていますか

とおいとよばれるきょり
むかしとよばれるひび
わたしたちのなかでみたされている
ふたつのくうはく

はじめてのようにみみをかさねるとき
であったときあなたがうたっていた
あのうたをもういちどききたい
いまはもうさみしいひびきになってしまった
あのうたをもういちどききたい
そのうたをきくときわたしたちのみみは
あつくとけあって
うたのさみしさのなかににじんでいく
うつくしい
ひとつのしみのように

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