拾遺放光 柿本多映句集 〈高橋睦郎 選〉
新書判
上製カバー装
本文75頁
装丁:高林昭太
定価:2500円+税
ISBN978-4-88032-459-3
柿本 多映著
柿本 多映(かきもと・たえ)プロフィール
1918年、滋賀県大津市園城寺(三井寺)に生まれる。京都女子高等専門学校卒。
1976年より句作を開始し、赤尾兜子、橋閒石、桂信子に師事。永田耕衣、三橋敏雄に親炙。「草苑」「白燕」「犀」同人を経て現在は無所属。
句集に、『夢谷』『蝶日』『現代俳句文庫 柿本多映句集』『花石』『白體』『肅祭』『仮生』(第五回桂信子賞、第29回詩歌文学館賞、第13回俳句四季大賞)『柿本多映俳句集成』(第54回蛇笏賞)。
エッセイ集に『時の襞から』『季の時空へ』。
ほかに『ステップ・アップ柿本多映の俳句入門』。
オビ(表)
多映さんはつねに
最初の一句を吐く俳人なのだ。
高橋睦郎
『柿本多映俳句集成』(2019年刊)に「拾遺」として収められた、1500句を超える
句集未収録作品から、赫奕たる佳句を精撰。
オビ(裏)
灌頂や蝶ふはふはと四隅より
男来て冬青空に鉤吊す
炎昼へからだを入れて昏くなる
八月の鯨のやうな精神科
序文(選者・高橋睦郎による序文「小序」)
柿本多映さんの句は他の誰の句にも似ていない。多映さんの句自体についても、どの一句も他の句とは似ていない。多映さんはつねに最初の一句を吐く俳人なのだ。『柿本多映俳句集成』の既刊七句集の一句一句との一回づつの出会いを愉しんだ後、改めて楽な気持で拾遺に対った。結果は七句集に劣らぬ眩しい光を放つ句との衝突の連続で、そのつどしるしを付け、さらに厳選して百句に余った。拾遺放光と名付けるゆえんだ。
〈選者〉高橋睦郎 略歴
1937年、北九州八幡に生まれる。福岡教育大学卒。1959年、第一詩集『ミノ・あた
しの雄牛』を刊行。以後、現代詩、短歌、俳句その他あらゆる詩形式を試み、小説、
オペラ、能、狂言など多分野で実作。
詩集に『王国の構造』(藤村記念歴程賞)『兎の庭』(高見順賞)『姉の島』(詩歌
文学館賞)を含む31冊。ほかに句歌集『稽古飲食』(読売文学賞)、句集『十年』
(蛇笏賞)。
あとがき(抄)
年が新たになり、何事も順調に運ぶ筈だったが、突如港に停泊した客船のニュースでコロナの名を耳にし、映像で映し出されるにつれ、不安な気持ちだった。それが俄かに拡散してゆき、われわれはその渦に巻き込まれていったのだった。その間いろいろなことが身辺を通過していったが、やっとただいまこうしてペンを握っている。
改めて庭をみると、家居の私を癒し続けた名も無い草花やどくだみの白い花は、螢袋や捩り花にとってかわり、おなじみの蜂は相変わらずすぐ傍を通り過ぎ、カマキリの子はかろうじて花の茎をよじのぼり、蟻は新たな巣作りに励むといった具合で、彼らは変化する自然に身をまかせて行動しているのだった。この小さな営みこそすべての生命の源であるという当たり前のことを、改めて思う自身に愕然としている。それはまたどこかで私の作品と繫がっていることをそっと願うばかりである。