深夜叢書ニュース

【著者近況】 柿本多映氏、『柿本多映俳句集成』で
第54回 蛇笏賞を受賞  2020年4月

小社から昨年3月に刊行された柿本多映氏の句集『柿本多映俳句集成』(くわしくは→こちら)が、第54回「蛇笏賞」を受賞しました(角川文化振興財団主催。4月17日、同財団HPで発表)。
同賞の選考委員は片山由美子・高野ムツオ・高橋睦郎・長谷川櫂の4氏。前年1月から12月までに刊行された句集の中から最もすぐれた作品に与えられます(短歌部門の「迢空賞」は別の選考委員が選定、受賞は三枝昂之歌集の『遅速あり』、砂子屋書房刊)。
「俳句」6月号が「受賞のことば」、各選考委員の選評、および「『柿本多映俳句集成』五十句抄」を掲載しています(以下、同誌から抜粋)。

▽「受賞のことば――春の嵐 柿本多映」
 蛇笏賞受賞のお知らせを受けた時、一瞬体の中を熱いものが駆け抜けて行った。思いもよらぬ出来事で暫く呆然としていた。目の前のテレビはコロナウイルスの緊迫したニュースを繰り返している。何とも身の置きどころのない自分がそこに居た。
 その時、庭から突然フェフェという声が聞こえた。長年我が家に棲みついている青蛙が今年初めて姿を見せ鳴いたのだった。
 (中略)
  二度童子狐のかんざし挿してくる
 これは私の五歳の原風景が俳句となっている。滋賀里で見た呆けた老婦人。薄笑いをしながら高貴な着物をはだけて歩いていた。何故か哀しかった。あれから数十年のち、体の中にしまわれたものが俳句という詩形を得て言葉として表現される。その喜びを今、噛みしめている。心の底から発する言葉を大切にしたいと思う。

▽高橋睦郎「選考を終えて」
『柿本多映俳句集成』は質量共に卓抜な一冊だ。熟年と呼ばれるに相応しい年齢で俳句と出会った女性の半世紀に及ぶきらきらしい句業が詰まった大冊で、深く感動した者だ。
▽高野ムツオ「言葉の幽遠世界」
 柿本多映の句を読むたび、俳句が、今も未知無限の可能性を秘めていることに気づかされる。俳句の詩の鉱脈は、まだその入口付近を掘り進んだにすぎない。
▽片山由美子「言葉が生み出す世界」
 柿本氏は神秘的ともいえる作風を貫いてきた特異な作家である。既に存在しているものを言葉に置き換えるのではなく、言葉によって世界を生み出していく作句法であり、作品に既視感が皆無である。
▽長谷川櫂「全身全霊」
 魂が言葉となる。あるいは言葉が魂となるといえばいいか。柿本さんのすぐれた句はどれも全身全霊をかけて詠んだ句である。それゆえに読者もまた全身全霊をかけて読まなければならない。
  金魚の尾ゆらぐ一日また一日
  他界までざらつく秋の足裏かな
  春の空わが眼球のほろびゆく
 そこには俳句を作る方法もなければ、俳句を読む方法もない。しいていえば、柿本さん自身が柿本さんの俳句の方法なのだ。読者は既存の方法などあてにせず空手(くうしゅ)で一語一語、一句一句と向き合うしかない。
 *
なお、中嶋鬼谷氏の句集『茫々』(昨年4月小社刊)が同賞の最終候補となった5作品に入っています(『茫々』のくわしくは→こちら)。

【著者近況】 原 満三寿氏、句集『風の図譜』で
第12回 小野市詩歌文学賞を受賞  2020年4月

小社から昨年10月に刊行された原 満三寿氏の句集『風の図譜』(くわしくは→こちら)が、第12回 小野市詩歌文学賞(俳句部門)を受賞しました(小野市主催、同市教育委員会のHPで4月5日発表)。選考委員は馬場あき子・宇多喜代子・永田和宏の3氏。
同賞は同市出身の歌人・上田三四二(1923~1989年:平成元年1月8日改元の日に死去)にちなんで、2009年に創設。前年1月から12月までに刊行された歌集・句集の中から優れた作品を顕彰する賞です(短歌部門は大口玲子氏の第六歌集『ザベリオ』、青磁社刊)。

▽授賞理由(選考委員・宇多喜代子氏の講評;同市HPから)
 季節の折々に吹く風は、時節により地域により、多くの名で呼ばれ、天地の万象に親和してきました。風がなければ、地上の生きもののいのちは断たれます。句集『風の図譜』は、その風の見えるところ見えないところ、近いところ遠いところ、乾いたところ湿ったところ、その来歴や行方などなど、風に沿うこの世もろもろの景に重なる自身の心象の景を、ときに荒々しくときに柔らかく表現した三九○句で成る句集です。
 行儀よく整った句、わかりやすい面白さ、約束事に忠実な句、それらとはずれたところで俳句と言葉の広がりを試行し、自らを表出した原満三寿の『風の図譜』の句群に喝采を送り、本年度の授賞句集といたしました。

▽宇多喜代子選『風の図譜』十句選
 水はなつ脊梁山脈に鳥かえる
 指で指かぞえる指に赤トンボ
 産道を逆さに出れば木下闇
 さよならの手は低く振る緑の夜
 行く秋をどの藁人が嚔せり
 関八州まわし呑みする蝮酒
 月山へ風の蛩音についてゆく
 三山を月ごとながす最上川
 送り火の手に手がそよぐ爆死の手
 憂き世かな宇野重吉めく金魚売り

▽受賞のことば(原 満三寿)
 このたびは、小野市詩歌文学賞を賜り、小野市の皆さんとご推薦いただきました選考委員の先生方に深く感謝申し上げます。
 小野市にはご縁があります。十年ほど前、ご当地・浄土寺の阿弥陀三尊立像を拝観し、大変感激したことがありました。ですから、受賞も仏恩かもしれません。
 七十歳はじめに、にわかに俳句に専念すべしとの内心の声が湧き上がり、第二句集を出しました。そして、七十八才でこのたびの第六句集です。老年になるごとに、俳句という三句体が私から言葉を紡ぎ出す、その面白さがわかってまいりました。

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【著者近況】原 満三寿氏、『遠くへ』の著者追悼詩「遠くへ」発表  2015.6.9

小社から昨年4月に詩集『白骨を生きる』を上梓された原 満三寿氏が、『遠くへ』『会津より』の著者で昨年9月に南フランスで客死した俳人の渡部伸一郎氏を悼み、詩誌「現代詩手帖」(思潮社)6月号に詩「遠くへ( Further!)」を発表しました(渡部氏の訃報は昨年10月に「深夜叢書ニュース」に掲載)。
「遠くへ( Further!)」全8連の詩から冒頭1連のみを掲出します。

   病室は白い筐
   感情的な蜩のかすかな声が
   修辞的なおおしいつくつく法師の声が
   見えない木になにかの翅音(しおん)が
   植物人間として昏睡するおとこには聴こえる
   そして
   異次元のわたしにも聴こえる
   おとこの呟きも……

かつて渡部氏から原氏を紹介されたという小社の齋藤愼爾は、「出版ニュース」の「深夜叢書社年代記」(連載第41回)で、俳人、エッセイストとしての渡部氏の〈人と作品〉を哀惜の念をもって綴っています。最期までファーブルにこだわった〈虫めずる俳人〉渡部氏、十代半ばにファーブルを読んで震撼した吉本隆明氏。故人となった二人のふしぎな巡りあわせにも筆がおよんでいます。また、「渡部さんの死に深い衝撃を受けた」という原氏の追悼詩「遠くへ( Further!)」に触れて、「追悼詩として秀れているという範疇を超え」て今年この作品を超えるものが出るかどうか……と結んでいます。

『会津より』の著者・渡部伸一郎氏、南フランスで客死 2014.10.4

小社から句集『亜大陸』とエッセイ集三部作『わが父テッポー』『遠くへ』『会津より』を上梓した渡部伸一郎氏が、9月8日、南仏アビニョンで客死しました。蝶や蟷螂の採集に身を入れる「虫愛ずる俳人」(『遠くへ』のオビ文)であった彼は8月20日から『昆虫記』のファーブルの故地を訪ねていました。その途上の31日、バスにうっかり荷物を置き忘れ、走り去るバスをあわてて追いかけている最中に心臓発作を起こし、アビニョンの病院で亡くなりました。享年71。『会津より』(2013年12月末刊行)のあとがき(題「待ち伏せ」)に、こんなくだりがあります。
「息切れがひどく、ちゃんと心肺をチェックしなくてはと思っていた。へたり込む前にと、一昨年はオランダ、ベルギー、フランスそしてブータン、昨年はトスカーナ、スイス、そしてスペインとけっこう頑張ったのである。帰ってきてやれやれと思っていたのだが、やり過ぎであったのだろうか。待ち伏せにあった」。待ち伏せの「予感」を「予告」しながら死との符牒を隠して旅立ったのかもしれません。届いた遺品の中にはしっかり捕虫網がしのばせてあったといいます。どんな幻の胡蝶を追いもとめて、どんな彼岸に旅立ったのでしょうか。
『会津より』は吟行や蝶の旅の間隙をぬって書き下ろされ、昨年12月末に刊行されています。戊辰戦争後、会津魂に育った外航船船長の祖父やシベリア強制収容所から生還した父など、三代にわたって時代の波に翻弄され格闘してきた130年に及ぶ〈ある家族〉を書き継いだ雄編です。読者からは「石光真清の『城下の人』四部作にみるように、たいへんドラマチック」「大河小説を読んだような快楽を味わった」といった賛辞が小社に寄せられています。
  ▽『会津より』の小社書籍内容紹介リンク先
     https://www.shinyasosho.com/home/book140117-02/
  ▽出身高校である新宿高校の同期生が掲載している書評のブログを紹介
   『遠くへ』 知の迷宮回廊に点在する自画像の謎
     http://yottyann.at.webry.info/201109/article_3.html
   『わが父 テッポー』 新宿高校同期の非凡な個性が語る父の記憶
     http://yottyann.at.webry.info/201109/article_2.html
   『わが父テッポー』『遠くへ』の著者・渡部伸一郎君の死亡のこと
     http://yottyann.at.webry.info/201409/article_2.html

【著者近況】俳人・柿本多映氏、俳句の3賞を連続受賞 2014.7.29

小社から句集『花石』(1995年)とエッセイ集『時の襞から』(2000年)を出版した柿本多映氏。昨年末以来、俳句の創作と評論活動に貢献した女性俳人に贈られる第5回「桂信子賞」(柿衛文庫主催)につづき、句集『仮生』(現代俳句協会刊)で第29回「詩歌文学館賞」(日本現代詩歌文学館振興会ほか主催)、さらに同句集で、第13回「俳句四季大賞」(東京四季出版主催)を受賞されました。
「俳句四季大賞」選考委員の一人で深夜叢書主宰の齋藤愼爾による選評は、「『現在』という時代の深層と生身の生活者の実存の場所から、思想的に世界=現実と切り結んできた。天賦のヴィジオネールの収穫物を味読されたい」とし、掲句は次の5句。
  鳥辺山ほどに濡れゐるあやめかな
  木枯にざらつく姉の身八つ口
  仮初めの世とな思ひそ冬の桃
  この世から水かげろふに加はりぬ
  末黒野をゆくは忌野清志郎
  ▽「桂信子賞」、授賞ニュースなどは柿衛(かきもり)文庫のHP参照
     http://www.kakimori.jp/2013/01/post_177.php
  ▽「詩歌文学館賞」のHPは下記参照。「すばる」6月号、受賞作の抄録掲載
     http://www.shiikabun.jp/jushou/jushou.html
  ▽「俳句四季」7月号が授賞の発表と受賞のことばなどを掲載

【著者近況】『藤沢周平伝』の笹沢信氏、『評伝 吉村昭』刊行 2014.7.29

小社から小説『飛島へ』(1994)を出版した笹沢信氏。4月6日に食道癌で急逝されました(享年72)。氏の人物評伝第3作目となる『評伝 吉村昭』が6月19日に白水社から発刊。この820枚超もの大作は病を押して書き継がれました。最初の評伝は『ひさし伝』(新潮社)、つづく第2作目は『藤沢周平伝』(白水社)です。氏は小説作品を書くかたわら、同人誌「山形文学」を主宰し、出版社「一粒社」を興して精力的に出版活動を行うなど、多彩にして多才な仕事ぶりを見せていました。遺作となった『評伝 吉村昭』は、「事実こそ小説である」を信条とした吉村昭文学の真髄に迫った渾身の作で、作家評伝として高く評価されています。
  ▽『評伝 吉村昭』の内容・目次・著者略歴は白水社のHP参照
     http://www.hakusuisha.co.jp/detail/index.php?pro_id=08373

【書評】『白骨を生きる』は、「紛うことなき『希望の書』」2014.7.29

原 満三寿詩集『白骨を生きる』の書評(2014年7月20日「産経新聞」から抜粋。評者は日本画家・鳥山玲)
〈この本は、震災から3年が過ぎた今、私に、未曽有の事態に直面して、心に負った想(おも)いに対して腑分けするように向きあい、見極める覚悟を促してくれた。そして自分の持てる時間に対する来し方行く末を意識せざるを得ない立ち位置の葛藤と鎮めを与えてくれた。〉
〈詩集は、やさしい明るさがあって、懐かしい日々やにぎわいがよみがえってくる。めぐり逢(あ)い、集い、結い、別れといった夢と現(うつつ)を切りむすぶそれぞれの情景が、あたかも野辺送りであるかのように、日本の気候風土の叙情のなかに鎮魂として立ち顕われる。そして「生きる」という強い思いに曝(さら)されて、心が求めて心に映じた想いに立ち向かい、誠実に迫ろうとする。〉
〈これは詩人の、悟性を超えて突き抜けた確固とした世界が放つ、冥界を白く輝き照らす、どこまでも紛(まご)うことのない「希望の書」なのだと思う。〉
  ▽書評全文は「MSN産経ニュース」のHP参照
     http://sankei.jp.msn.com/life/news/140720/bks14072010000002-n1.htm

深夜叢書社、第29回「梓会出版文化賞」の「特別賞」を受賞2014.1.18

2013年12月2日、第29回「梓会出版文化賞」の発表があり、小社が「特別賞」 を受賞することになりました。(株)赤々舎との同時受賞です。同賞は1982年 (昭和57年)に創設され、出版物である作品や作家を対象にするものではなく、 出版社の優れた出版活動そのものを激励し、顕彰するという賞です。併せて出版 文化の発展と出版物の質的向上への願いが賞創設の理念として掲げられています。 同賞を主催し、現在111出版社が加盟する「出版梓会」の沿革や同賞の委細は、 出版梓会のHPをご覧ください。
    http://www.azusakai.or.jp/index.html

【著者近況】新「国文学」俳句特集号に深夜叢書の著者ら寄稿2014.1.18

日本語・日本文学の研究誌「国文学」が休刊となり、その編集長だった牧野十寸穂 さんが、その精神を継ぐ雑誌として立ち上げたのが季刊の「アナホリッシュ國文学」 です(発売は北海道の文芸出版社・響文社)。
創刊以来、各号の大特集が書評や記事で取り上げられ話題を呼んでいますが、その 2013年12月発行の第5号(冬号)1周年記念「俳句総特集」号に、深夜叢書社から 上梓された多数の著者・関係者が寄稿しています。上野千鶴子・齋藤愼爾・江里昭 彦氏による長時間鼎談「俳句の近代は汲みつくされたか」をはじめ、立石伯、黒田 杏子、恩田侑布子、筑紫磐井、宗田安正、ドナルド・キーン、芳賀徹、吉増剛造の 各氏ら多彩な筆者による陣容を見せています。
「アナホリッシュ」の名称は、詩人の吉増剛造氏の提案によって、ノーベル賞詩人 シェイマス・ヒーニー氏の詩から採られ冠されたといい、その意味するところは、 「清らかな水の湧き出る所」。
「ここに切りひらかれたゆたかな水のながれは、これは運河と呼ぶべきだろう。」と は石川淳の「鷹」の冒頭です。「アナホリッシュ」からの清らかな湧水がやがて噴流 となり、ゆたかな運河のうねりへと切りひらかれることを願ってやみません。 同号の目次およびバックナンバー等は、響文社のHPをご参照ください。
    http://www.kyobunsha.com/


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