句集 樟若葉(くすわかば)

句集 樟若葉

四六判上製カバー装
発行日:2020/11/30
本文190頁
装幀=高林昭太
定価:2700円+税
ISBN978-4-88032-464-7

後藤帰一著

後藤帰一(ごとう・きいち)プロフィール

1954年、茨城県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。78年、中日新聞社に入社。88年から東京本社(東京新聞)文化部で主に文芸を担当。文化部長、編集委員などを務め、2019年退社。
前橋支局在勤中の1986年、地元の俳誌「草林」に入会して句作を始める。東京転勤後、「みそさざい」「葛」などに参加。89年から退職するまで会社内の句会「百花」で活動した。
現在、合気道七段、早稲田大学合気道会師範。東京都武蔵野市在住。

オビ(表)

夕霧やたちまち隠す沼ひとつ
新聞記者をしながら、四季の移りをどう詠んできたか。
1986年から2020年までの310句を収めた退職自祝句集。

オビ(裏)自選12句

淑気身にまとひ卒寿の師の演武
吹かれても吹かれても梅香を放つ
暖かや母が笑へば子が笑ひ
大朝寝してよくものの見ゆるなり
輝ける神殿の朱や樟若葉
野に川に生気の満ちて梅雨に入る
過不足がなくて涼しき話かな
昇魂之碑の上にまた黒揚羽
人恋ふるやうに夕萩揺れやまず
ひろびろと月の道あり湖の上
武蔵野の木の葉一気に散り尽くす
六根清浄六根清浄瀧凍る

あとがき(抄)

 本書に収録する句を選ぶ作業をしていると、毎年同じように、四季の移り変わりや日常の思いを詠んできたことがわかり、少しく感慨を覚えました。そんな句の中に出てくる「初稽古」や「寒稽古」というのはすべて合気道の稽古で、「師」は多田宏師範(九段)です。合気道は一九七三(昭和四十八)年の大学入学と同時に多田先生に師事し、卒業後は主に東京・吉祥寺の月窓寺道場で稽古を続けてきました。多田先生が満90歳の今も大変お元気で、日々情熱的な指導をしてくださっているのは嬉しい限りです。
 句歴は35年、合気道歴は47年になるのですが、この二つ、縁が無さそうで通じ合うところもあります。武道の伝書である沢庵禅師の『不動智神妙録』に「一所に定り留りたる心は自由に働かぬなり」とあるように、合気道で重要なことは何かに心を留めないこと、執着しないことです。心が自由でなければ体を自由に働かすこともできません。従って、状況を正確に把握しながら、それにとらわれずに自在に動けるようになることが稽古の目標になります。俳句でも既成の観念にとらわれていると新たな発見は望めず、優れた五七五の絵筆を持っていても、心が自由でなければそれを十分に活かすことは難しいでしょう。
 また、合気道の開祖・植芝盛平先生が「真の武道とは宇宙そのものと一つになることだ、宇宙の中心に帰一することだ」(『合気神髄』)という言葉を残されていますが、これは「造化にしたがひ、造化にかへれ」という芭蕉の教えと重なります。諸芸行き着くところは同じであると言えばそれまでですが、興味をひかれるところです。
 虚子は、花鳥諷詠の文学である俳句は勢い「極楽の文学」になると説きました。いかに窮乏生活をしていても病苦に悩んでいても、ひとたび心を花鳥風月に寄せることによって、その生活苦を忘れ病苦を忘れ、ほんのわずかな時間であっても極楽の境に心を置くことができると言うのです。一方、呼吸法と気の錬磨を基本にした稽古法を確立された多田先生は合気道について、いのちの力を高めるとともにその使い方の法則を身につけ、それを日常生活に活かす武道であると説明されています。実際、仕事などでどんなに疲れていても、何か気のふさぐことがあっても、ひとたび稽古をして汗を流せばたちまち身が軽くなり、心が晴々として明日への力が湧いてきます。俳句が「極楽の文学」であるなら、合気道は「極楽の武道」であると言えるでしょう。二つの「極楽」を知り、その世界に浸って半生を送ってこられたのは幸せなことであったと思っています。

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