ひと滴のうつくしめまいへ

ひと滴の愛しめまいへ

四六判上製・カバー装
本文68頁
装丁=高林昭太
発行日:2016/6/17
定価:1200円+税
ISBN978-4-88032-430-2

上坂 京子著

上坂 京子(かみさか・きょうこ)プロフィール

1949年、広島県生まれ。
総合文芸誌「イリブスⅡ」同人。
詩集に『満月に桃色の羊を曳く』(2001年、深夜叢書社)、
『風と蔓珠沙華』(2010年、深夜叢書杜)。

オビ(表)

頁を繰るごとに滴る美の雫。
これは己が揺籃期から音楽を精神の糧として生きてきた著者の魂のクロニクルだ。モーツァルトから炭坑節まで、ジャクリーヌ・デュ・プレから舟木一夫まで、更に生命の酣たる「早春賦」から、いのちの永劫回帰の着地点「大地の歌」まで、百花繚乱のシンフォニーの饗宴。

オビ(裏)

著者の上坂京子さんは昭和24年(1949)生まれ。等しく激動を生きた時代の子だ。1949年といえば、歴史学の新時代を告げるブローデルの『地中海』が刊行された年だ。この書は、第2次大戦中、ドイツ軍の捕虜としての5年間の収容所生活のなかで記憶を頼りにして書かれている。わが国では「銀座カンカン娘」高峰秀子、「悲しき口笛」美空ひばり、「青い山脈」藤山一郎・奈良光枝が大ヒット。「古い上着よ、さようなら/さみしい夢よ、さようなら」が口ずさまれた。下山、三鷹、松川事件など暗い事件も発生。政治においても「古い上着」(因習・道徳・思想)と訣別することの困難さを物語った。あれから70年、一体何が変わったといえるのだろう。              (齋藤愼爾)

あとがき

「仙台演劇研究会通信」発行の「ACT」は仙台在住の丹野文夫氏主宰の月刊誌である。同誌は言葉による総合芸術の器として、多様なジャンルの多彩な書き手たちが読みごたえのある記事を寄せ、すでに四〇〇号を超える発信を続けている。そのうちの「ミュージック・プロムナード」という誌面に一年間連載させていただいた。私は音楽という無形の太い柱にもたれ、連載していくうちに、往事茫々、半世紀それ以上も前のあれこれが、この情操にさまざまに具体的なかたちを与えることにより騒々しく蘇生が始まった。だがここにきて相次いで両親を送るというかつてない濃度で燃焼せざるを得ない時間を経て、座標軸の定まらぬ現実が思わぬスパイスをもたらしてくれたことは否めない。行きつ戻りつためらっていた出版にようやく着手しこぎつけることができ、すでに発表されたものを大幅に加筆し、書き下ろしを三作加え何とか一冊にまとめることが叶った。ことばに喩の鎧を着せる詩の創作とは真逆の世界への直視を、本能的に避けてきたにも関わらず、漠然とこころをよぎるあれこれも言葉として恐る恐る紙面に置くことにより、己の生から分泌されるものに突きつけられ、いまさらながら新しい鉱脈を掘っている感覚に度々陥った。嗅いだことのない熱い匂いに咽せ何度となく立ち止まり気づかされ救われていった一年間であった。従前より四半世紀にわたり師である倉橋健一氏にはこのたびもお世話をいただいた。生きる縁として師匠としての毒はふんだんに浴びたが今ここに、その毒こそが極めて上質の良薬であったことに気づかせてもいただいた。 (後略)

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