心にのこる旅 旅立ち、死者たちとの対話

心にのこる旅

四六判上製・ソフトカバー
本文210頁
装丁=高林昭太/装画=柳 光
発行日:2016/3/10
定価:1500円+税
ISBN978-4-88032-428-9

宮腰 榮一著

宮腰 榮一(みやこし・えいいち)プロフィール

昭和24年(1949)横浜生まれ。桐蔭学園文化センター長として、出版、劇場、美術館の業務に携わる。
著書『心にのこる旅 離島の記』(2010年5月、深夜叢書社)、『心にのこる旅 異国の街で』(2010年5月、同)、『心にのこる旅 カンボジア 陰と光』(2012年1月、同)、『心にのこる旅 グアム、サイパン、テニアン』(2013年12月、同)

オビ

旅することの深まり・・・ 時代への証言
ラオスの古都で出会った托鉢の僧侶たち。
 南フランスで見つけた小さな美術館。
  戦争遺跡を訪ね歩き、その風化を憂い、
   震災から立ち上がる石巻に「船出」の希望を託す。
    亡き人たちの声に導かれ、追憶の旅が始まる。

目次

Ⅰ この国を旅立って……
  南仏プロヴァンス、コート・ダジュールの旅
   マルセイユと日本にあるル・コルビュジエの設計作品  マルセイユ小史
   「エドモン・ダンテスの牢獄」のあるイフ島  ブイヤベース
   古代の水道橋(ポン・デュ・ガール)
   教皇庁(法王庁)のあった町、アヴィニョン
   アルルのローマ遺跡とロマネスク様式建造物
   巡礼路の始点となったアリスカン  ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ
   ポール・セザンヌのアトリエ  ルノワール美術館
   ロザリオ礼拝堂とマティス美術館  シャガール美術館  鷲の巣村
   モナコ公国
ラオスの古都ルアンパバーンへ
   直行便がないためルアンパバーンまで九時間
   町全体が世界遺産に登録される  町を象徴する寺院
   信仰が今も息づいているルアンパバーンと抑圧された托鉢
   もち米から造る「ラオ・ラーオ」 「貧困国」のイメージが馴染まない国だが……
   第二の人生を「ラオス産ラム酒」造りに挑戦している五人の日本人
   非合法アヘン生産から観光立国へ
インドの思い出
   インド小史  道路をうろつく野良牛  食べ物と宗教と日本のカレーライス
   インド人の生活の中に深く根ざす宗教  カースト制度と結婚  ジャイプール
   バンガロールのグローバル戦略  ムガール帝国のファテーブル・スィークリー
   アーグラー  突然の停電  デリーでコブラの入った篭で蛇屋に脅かされる
   一分間に四十八人の人口増加

Ⅱ 死者たちとの対話、そして……
太平洋戦争の戦争遺跡を訪ねて
   稚内とサハリンと奥尻島  特攻兵器・人間魚雷「回天」の訓練基地
   手安弾薬庫と震洋隊の特攻基地、富山丸の慰霊碑
   特攻平和慰霊碑と戦艦大和慰霊塔  北マリアナ諸島の旅から
   南洋興発、初代社長で最後の社長であった松江春次  戦跡地の消滅?
   テニアン島の戦跡  陸軍登戸研究所  風船爆弾作戦
   偽札印刷陸軍登戸研究所の移転と敗戦
内外の葬送儀礼と埋葬制度について
   ユニークな古座の葬送儀礼  なくなりつつある両墓制 イスラーム教徒の土葬
   葬式とニューオリンズ・ジャズ  ピラミッドはなぜ造られたのか?
   大韓民国の埋葬制度
石巻の輝く未来へ
   罹災後の海岸地域の姿  女川中学校の生徒の取り組み
   この地域の津波の歴史 六枚の壁新聞
   サン・ファン・バウティスタとともに再起を図ったミュージアム
   支倉常長の数奇な生涯  本間家土蔵修理記念イベント

あとがき

 このシリーズもすでに五冊目となりました。何故これほどまで旅をしてきたのだろうかと振り返ってみました。しかし、どう考えてみても、日本の離島を訪ねてみたい、戦争遺跡を訪ねてみたい、訪れたことのない海外の地に行ってみたい、というような単純な欲求のほかは旅の動機が見つかりませんでした。
 若いころ、俳誌『寒雷』を創刊した俳人・加藤楸邨氏の「旅と俳句」という講演を聞く機会がありました。
 楸邨氏の父君は国鉄(現JR)に勤めていた関係により転任が多く、子ども時代の楸邨氏は、父親の転任のたびに学校を変わるというような、生活は定住せず、旅で終始していたそうです。父親が岩手県の一ノ関の駅長をしていたころ、隣の駅が平泉で、松尾芭蕉が『奥の細道』で「夏草や 兵どもが 夢の跡」を詠んだ地であることを知り、それが楸邨氏の俳句人生に結びつく契機となったのでないかと、語っていました。また、生涯にわたって旅をして、旅のうちに果てた芭蕉に学ぶことが多く、ご自身も芭蕉の足跡を訪ねる旅をしたり、また、隠岐島など自分の好みの場所に出かける旅に出たり、旅することがいつの間にか俳句作りの延長になったといいます。戦争の最中でもゴビ砂漠に行ったそうです。
 この話に自分は影響され、北京から飛行機でウルムチに入り、そこから飛行機を乗り換えてタクラマカン砂漠を飛び越え、新疆ウイグル自治区のカシュガルに到着すると、さらにバスでパミール高原のカラクリ湖まで行ったことがありました。
 この地域は、中国の人々の顔、服装とは異なるイスラーム文化圏です。ロバの行き交う舗装のしてない道、賑やかなバザール、スイカやハミウリを売る露店、カラフルなスカートに身を包んだ女性たち、手工芸品を作っている小さな作業場など、濃厚な民族色に彩られた町と、そこに生活する人々にただひたすら感激していました。
 どうも自分の旅の動機は、ただ行ってみたいということだけで、あまり前向きでないようですね。
 このたびの『心にのこる旅』は、第一部に、「南仏プロヴァンス、コート・ダジュールの旅」、「ラオスの古都ルアンパバーンへ」、「インドの思い出」、第二部として「太平洋戦争の戦争遺跡を訪ねて」、「内外の葬送儀礼と埋葬制度について」、「石巻の輝く未来へ!」と、今までと異なる編纂となりました。訪れたその地の歴史や旅の面白さを感じていただければ幸いに存じます。
 月日は百代の過客にして、
 行かふ年も又旅人也。
 舟の上に生涯をうかべ、
 馬の口とらえて
 老をむかふる物は、
 日々旅にして旅を栖とす。

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