書棚から歌を

書棚から歌を

新書判
本文334頁
装丁=高林昭太
発行日:2015/6/3
定価:1400円+税
ISBN978-4-88032-422-7

田中 綾著

田中 綾(たなか・あや)プロフィール

1970年、札幌市生まれ。歌人。現在、北海学園大学人文学部教授。
著書に、『権力と抒情詩』(ながらみ書房、2001年)。
共著に、『作家と戦争 太平洋戦争70年』(河出書房新社、2011年)、現代短歌研究会編『〈殺し〉の短歌史』(水声社、2010年)、北海道の出版文化史編集委員会編『北海道の出版文化史』(北海道出版企画センター、2008年)、『水の川・加藤多一の世界』(北海道新聞社、2004年)、文学史を読みかえる研究会編『大転換期「60年代」の光芒』(インパクト出版会、2003年)、『現代にとって短歌とは何か』(岩波書店、1998年)など

オビ

短歌がいざなう
〈今〉を考えるためのブックガイド

本の中に埋もれた〈歌〉に耳を澄ませば――
戦後と戦前を往還しつつ、〈歌〉の〈訴え〉を探索する読書の旅

「あとがき」から(抜粋)

  どの本も実際に私の「書棚」にあるので、関心領域である戦時下の短歌史、言論統制、労働問題、評伝などが多くなっただろうか。本書は、その中でも、日ごろ接している学生たちに読んでほしい=伝えたい本を中心に編んでみた。(中略)「明治」「大正」「昭和」「GHQ占領期」をまとめて「昔」の一語で片付ける彼/彼女らに、近代と、私たちの〈今〉とは地続きであることを伝えなければ——そんな切迫した想いが、実は本書を編んだ動機でもある。

目次(全153書籍から、ここには各年とも冒頭の20冊前後のみ掲出)

2009~2010年
齋藤愼爾『ひばり伝』/『太宰治選集』/南悟『生きていくための短歌』
小嵐九八郎『真幸くあらば』/清水卯之助『管野須賀子の生涯』
楠見朋彥『塚本邦雄の青春』/松本健一『北一輝の革命』/『ペン先の殺意』
松浦寿輝『あやめ 鰈 ひかがみ』/成田智志『監獄ベースボール』
糸田ともよ歌集『水の列車』/加藤周一『言葉と戦車を見すえて』
『中井英夫全集11 薔薇幻視』/北村薫『詩歌の待ち伏せ1』
江口渙『わけしいのちの歌』/黒木夏美『バナナの皮はなぜすべるのか?』
『〈殺し〉の短歌史』/木山捷平『長春五馬路』/丸谷才一『笹まくら』
『この果てに君ある如く』/鶴見俊輔『詩と自由』/『林芙美子随筆集』
2011年
『武道歌撰集』/北出明編著『風雪の歌人』/『伊東静雄日記』/原武史『沿線風景』
町田康『人間小唄』/小田部雄次『昭憲皇太后・貞明皇后』
『逆徒 「大逆事件」の文学』/富岡多惠子『中勘助の恋』
斎藤由香『猛女とよばれた淑女』/黒川創『きれいな風貌』
三山喬『ホームレス歌人のいた冬』/菅聡子『女が国家を裏切るとき』
松下竜一歌文集『豆腐屋の四季』/片上雅仁『秋山真之の謎を解く』
小林慧子『ハンセン病者の軌跡』/伊藤桂一『私の戦旅歌』
坂本慎一『玉音放送をプロデュースした男・下村宏』/千代田明子『戦争未亡人の世界』
横手一彦編著『長崎・そのときの被爆少女』/山田火砂子・車取ウキヨ『筆子その愛』
2012年
別所興一・鳥羽耕史・若杉美智子『杉浦明平を読む』/北見鳩彦句歌集『幻世』
西尾成子『科学ジャーナリズムの先駆者 評伝石原純』/磯田道史『殿様の通信簿』
手塚正己『警備員日記』/小塩卓哉『名歌のメカニズム』/
古谷鏡子『命ひとつが自由にて』/大井学『浜田到』/岸田國士戯曲集『岸田國士Ⅰ』
永畑道子『恋の華』/内田康夫歌集『歌枕かるいざわ』/渡英子『メロディアの笛』
吉野孝雄『宮武外骨伝』/近藤富枝『田端文士村』/枡野浩一選『ドラえもん短歌』
広島文学資料保全の会編『さんげ』/渡部良三『歌集 小さな抵抗』
下川耿史『盆踊り』/吉田敏浩『赤紙と徴兵』/秋山佐和子『原阿佐緒』
2013年
保阪正康『農村青年社事件』/佐藤弓生『うたう百物語』/大崎善生『赦す人』
『片山廣子全歌集』/阿木津英『方代を読む』/嵐山光三郎『美妙 書斎は戦場なり』
伊藤章治『ジャガイモの世界史』/浅羽通明『時間ループ物語論』
氏家幹人『殿様と鼠小僧』/北原東代『白秋と大手拓次 共鳴する魂』
今泉宜子『明治神宮』/高田崇史『QED 六歌仙の暗号』/齋藤愼爾『周五郎伝』
角田光代『太陽と毒ぐも』/早坂隆『戦時演芸慰問団「わらわし隊」の記録』
坂本龍彦『シベリアの生と死』/藤原伊織『テロリストのパラソル』
三浦綾子『生命に刻まれし愛のかたみ』/新木安利『サークル村の磁場』

書評より(「毎日新聞」)2015年6月7日号、「今週の本棚」から抜粋)

「短歌アンソロジーとしても読みごたえがある」
 知的刺激があり、かつ、評された本が読みたくなる書評を書きたいと思っていても、なかなか理想通りにはいかない。本書はそのハードルを軽くクリアした出色の書評本だ。
(中略)
 たとえば、「木(こ)のもとに臥せる仏をうちかこみ象蛇(ぞうへび)どもの泣き居(を)るところ」という正岡子規の歌がまず掲出される。釈迦の死を嘆く獣たちの姿を歌ったものだが、銀座の文壇バーで多くの作家に愛された女性が死んだとき、大岡昇平、小林秀雄、河上徹太郎ら錚々たる「象蛇」たちがその死を嘆いた場で、子規の歌を白洲正子が口にした、というエピソードが、久世光彦の『女神(じょしん)』から引かれる。そこからさらに大岡昇平がその女性をモデルに書いた小説『花影』に触れ、短い書評の中に短歌の魅力と二冊の小説、昔日の昭和文壇の姿まで織りこんで見せる。
 小説の他、評伝なども多いが、じつに多くの人が短歌を詠んでいる事実にも驚かされる。美空ひばり、小林旭、金嬉老(キムヒロ)のものまであり、それぞれに胸を打つ。短歌アンソロジーとしても読みごたえがある。

※「北海道新聞」の文芸記事から(2015年6月1日号)

北海道新聞記事

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